remote reference点探索
CA枕草子 - 最近の活動(観測速報やセミナー報告など)
2009年9月10日(木曜日) 10:00

MT法においては,自然の電磁場をソースとして
用い,周波数領域における電磁場応答関数(電場
-磁場間の振幅比,位相差)から地下の比抵抗(
電気の流れにくさ)構造を推定します.

良好な電磁場応答関数を推定する一つの方策として,
remote reference法(下記1)の論文を参照ください)
があります.ノイズの少ない(通常ターゲット地域
から遠く離れた)remote点において磁場水平2成分
を測定し,ターゲット地域の各観測点での電磁場か
ら,remote点の電磁場(通常は磁場)に相関のある
成分のみを抽出することで,各観測点周辺のローカ
ルなノイズの影響を除こうというものです.

ノイズ環境が悪いと考えられる地域での観測が予定
されていたため,自前のremote reference点を持ち
たいと考え,冬の積雪のことも考えて,福島県境に近い
茨城県常陸太田市(旧里美村)にノイズ状況の調査に
に出かけました.その時,端的にremote点の必要性を
実感することがありましたのでご紹介します..

1) Gamble, T. D., J. Clarke, and W. M. Goubau,
Magnetotellurics with a remote magnetic
reference, Geophysics, 44, 53?68, 1979.

ノイズ状況は,1日測定すればデータの質がほぼ判断
できるため,写真のように磁場コイルセンサーを埋めず,
簡単に両端を土で覆う程度で1晩データをとりました.

そうすると,プロット1のような時系列となりました.
プロット1では,上から電場の南北,東西成分,磁場の
南北,東西成分の4つの成分を示しています.時系列を
見慣れている方にはすぐわかることなのですが,プロッ
ト1では,灰色で覆った部分に磁場水平成分(下段2チャ
ンネル)に顕著なピークが見られ,電場にはそれに対応
した変化が認められません.

通常,磁場のみに測定されるノイズとして,自動車
が近傍を走ることによるノイズや,立木のゆれノイ
ズなどが考えられるのですが,現地は自動車道から
かなり離れた場所であったうえ,伐採地でした.結局,
上述のように簡易な測定をしたため,コイルの上を小
動物が走り,センサーが揺れたことによって生じたノイ
ズだと推定されました.ここでは,2048秒分のデータ
のみを示していますが,それ以外の時間にも(特に夜
間に),頻繁に磁場のみに振動的な波形やパルスが
混入していました.

この時系列を周波数解析すると,プロット2のような
探査曲線となります.これは,
電場南北成分-磁場東西成分間(緑),
電場東西成分-磁場南北成分間(赤)の周波数ごとの
振幅比(上段)と位相差(下段)を表示したものです.
周波数が小さい(右側)ほど地下深部の情報を示し,
この探査曲線を逆解析することで地下の比抵抗構造が
推定されます.が,ご覧のように,1Hzから低周波の
応答関数が殆ど決まっていません(大きくとびがあっ
たり誤差が大きい).

実は,このとき,先ほどの点から数km離れた点でも
ノイズ調査のための観測を実施していて,そちらでは,
用いたコイルの長さが短かったこともあり,きちんとセ
ンサーを埋めていました.こうして,その点での磁場デー
タを用いたremote reference処理が可能で,処理
の結果,探査曲線はプロット2からプロット3のように
劇的に改善しました.こうして,現地が,1日の
データ(それもあまり顕著なシグナルがない状況)で
良好な応答関数が決定できるremote reference
点にふさわしい地域であることが確認できたのですが,
同時に,remote点の必要性,さらには,テスト観測
といえどもコイルは埋めなければならないことを改めて
深く認識した次第です.

...ところが,実際は,この観測点では継続的な観測の
許可を得ることができず,その後,(永続的ではな
いのですが)山形県大蔵村にremote reference点を
設置
することになりました...

東大地震研究所、上嶋 誠記